エンド/ゲームに備えよう!! 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー ヒーローズ・ジャーニー』感想
アベンジャーズ第4弾にして、おそらく事実上の最終章になるであろう『アベンジャーズ・エンド/ゲーム』は、ディズニーの徹底した情報統制により、全く展開が読めない状態だ。
約10年に及ぶ一大巨編、映画界の在り方すら変えてしまった最強のユニバース映画。その最期が再来週にはやって来てしまう。
ディズニーの徹底した情報統制は昨年に経験済みだが、今年も凄いことになっている。出演俳優は勿論のこと、制作陣の多くが「結末を知らない」と公言。公開された予告編にはフェイクのシーンが収録されているとの情報もある。しかも前作があんな終わり方をしたこともあり、この焦らしは効果てきめんである。
そんな気分を紛らわすために、『インフィニティウォー』を見返す日々を繰り返してきた私の前に現れたのが本書であった。
本書はインフィニティ・ウォーの前日譚という位置づけにあるが、実際はこれまでのMCUの歴史を振り返るというものである。
スポットがあたるキャラクターは以下の3名+1組である。
・ソー
である。そして、それぞれの物語の合間にアイアンマンこと、トニー・スタークの物語が語られる。
どのキャラクターも今後の展開の趨勢を担う重要人物たちだ。
本書では彼らのこれまでの物語を、本編で縁深いキャラクターの視点が振り返るというものだ。
以下、公式のあらすじ
ところで、ヒーローがヒーローたるには必須条件があると私は思う。それは、他者から認められ、そして、語られるというものである。
キャプテンアメリカの高潔さを。
ソーの王としての姿を。
ドクター・ストレンジの希望を諦めない姿を
ガーディアンズ達の愛を
既に視聴者である我々は、それぞれの作品を通じて知っている。
しかし、そこにまた別の角度から光が当てられる事によって、つまりは、本編とは違うキャラクターの視点から語られることによって、より彼らの姿を立体的に捉えられる。有体に言って"凄味”を味わえるのだ。
まず最初に語られるのは、キャプテンアメリカこと、スティーブ・ロジャースだ。
語り部となるのは、現代の彼の相棒である、ブラックウィドウだ。
彼女の視点から、スティーブのこれまでの物語が語られる。
幼少の頃からスパイになるよう育てられ、人を疑うように訓練されてきた彼女が、もう一度人を信じれるようになったのはスティーブの力による部分が多い。
そもそもにおいて、スティーブは兵士としての肉体的素質を、何一つ持ち合わせていなかった男だ。しかし、虐げられ続けても勇気を失わず、戦う意思を示し続けてきたという不屈の精神を買われ、超人能力を手に入れることを許されたという経緯がある。
弱さを誰よりも知る人物。故に、弱者を守ることに全力を注げる、正義を体現するに足りる人物であった。
度重なる任務において、感情を殺し、相手を欺き、冷徹に仕事をこなす。そんな苦境のなかにいたナターシャ(ブラックウィドウ)からすれば、彼は正義の鏡であり、同僚となった現代では、道標のような存在になったのかもしれない。
これまでのMCUでも、キャプテンアメリカは伝説の男として描かれてきたが、ナターシャの視点で改めて語られることで、いかに偉大であったかを語りなおすことに成功している。
また、MCUの歴史においても大きな転換点になってしまったシビルウォー、その詳細は『キャプテンアメリカ/シビルウォー』にて語られたわけだが、本書ではナターシャの口から改めて振り返られた。
劇中でのキャップの行動と、それに対する感想はまた別の形で記事にしたいので、ここでは割愛。
要するにスティーブは、敗残者だったのだ。常に虐げられる存在であり、それゆえに優越感をもった人間とは折り合いが悪かったのだ。
彼は超人血清を打ちスーパーソルジャーになり、アベンジャーズの一員として戦える
ようになった後も、根底にあった弱者としての原点と、それ故に常に弱者の味方で在ろうとする高潔さを失わなかった。
彼が超人達を国連の管理下に置くというソコヴィア協定に、易々と賛成できなかったのには組織の腐敗を経験したことで、組織という枠組みに対して懐疑的であったこともあるが、それ以上に常に優越感をもった者たちの管理下に置かれ、国々の利益のために行動することができなかった。自分たちが掲げた正義に柵が設けられることに納得ができなかったのである。
スティーブ・ロジャースは正しすぎる、それ故に最終的にはナターシャも、彼の側に立つ決心をした。
本書では、協定に反対し逃亡者の身になったスティーブとナターシャ、そしてファルコンの三人が、人々のために戦っていた事実も語られる。
トニーやバナーといった、化学技術に長ける人員がいない中で、かなり乱暴な、いや脳筋なやり方で大量破壊兵器を無効化する様子は、結構微笑ましいというか、エモいです。ナターシャが心底スティーブを信頼しているのが分かります。
ここを踏まえると、インフィニティウォーの登場時における、阿吽の呼吸とも云える連携も納得力が増します。おススメです。
お次はソー。
語り部はヘイムダルが務める。ソーが最も信頼を寄せる人物である。
メインで語られる出来事は、ソー・ラグナロクでの事件である。
本編ではソーが王として覚醒する物語だったが、ヘイムダルの視点から視ると、ヘラという脅威が迫る中、アスガルドの民を匿いつつ、ソーという英雄が助けに来るのを信じて待つ物語に再構成されている。
初期の頃は傲慢で、力を持て余している印象も強かったソーだが、ヘイムダルはずっとゆくゆくはソーこそがいずれは王に成るのだと信じていた事が明かされる。
ソーの物語は基本的に、ロキとの永い兄弟喧嘩を描いていたという印象もあったのだが、ヘイムダル視点だとよりヒロイックになっている印象になる。
次にスポットがあたるのは、傲慢さだとソーを上回る俺様キャラのドクター・ストレンジだ。
語り手はストレンジの兄弟子にあたるウォンが務める。
ストレンジの本編が一作しかない都合上、振り返りの文量は前二編と比較して少な目になっている。
その代わりに本編の後日譚に重きを置いていて、エンシェント・ワンの後継者となったストレンジの戦いを、相棒のウォンが自らの手記に綴るという構成になっている。強大な敵に対して予想もつかない手段で対処し、それに振り回される相棒という、ホームズとワトソンのような構成になって、このあたりはストレンジを演じているベネディクト・カンバ―バッチ氏をリスペクトしての構成かと思う。
これまではMCUの本筋と中々絡んでこなかったガーディアンズの面々にも、スポットがあたる。
メンバーの一人であるガモーラは、インフィニティウォーの最重要人物サノスの娘である。当初は養父サノスの命令で、ザンダー星を滅ぼそうとする”ロナン”に従っていたが、企みを阻止すべく離反、パワーストーンが隠されたオーブを奪う。その後、成り行きで行動することなったピーターや、ドラックス、ロケット、グルートらと共にガーディアンズを結成し、ザンダー星の滅亡を防ぐことに成功する。
この戦いで、彼女は自分の居場所を得ることになるのだが、報われる事のなかった人物がいる。
それが今回の語り部となる、ネビュラである。
ネビュラの視点からガモーラとの訓練の日々、ガーディアンズに加入し、自らの居場所を手に入れた義姉に対する愛憎入り交じった複雑な感情が語られる。
読後にもう一度本編を見直すと、よりネビュラに感情移入できるようになる。
そして最後に、トニースタークこと”アイアンマン”のこれまでの物語も語られる。
アイアンマンとして、アベンジャーズの一員として世界の脅威に立ち向かっていた彼は、ニューヨークのチタウリ侵攻の折、迫りくる危機を知る。
いずれ訪れる危機に備えて、人類を守る人工知能”ウルトロン”の制作に着手するも、反乱をおこされてしまい結果的には失敗、その後数々の戦闘の責任を追及されたアベンジャーズの面々は、ソコヴィア協定の調印を命令されるが、その先陣をきったのはトニーであった。彼は自ら正義にまつわる責任をとる為の行動であったが、意見が対立してしまったスティーブとの対決を招いてしまった。
こうしてみると、トニーのこれまでの行いの多くがことごとく空回りに終わってしまっていることが分かります。今回の幕間の物語でも、サノスへの対抗策として、人工衛星の打ち上げを行っている描写もあるが、こちらもサノスの凶行を、結果的に防ぐには至らなかった。
おわりに
本書はMCUのストーリーを別の視点で振り返ることで、それぞれの正義の在り方を描いていた。
決別してしまったトニーとスティーブがどのように再開し、和解するのか
民の多くを失ったソーは王に戻れるのか
希望を常に失わず、運命に抗い続けたドクター・ストレンジが残した希望とは何だったのか
恨み続けた姉を失い、元凶であるサノスに敗れたネビュラは復讐を果たせるのか
エンド/ゲームでヒーロー達が、いかなる正義の下サノスに復讐(avenge)していくのか、その結末への期待が高まります。